ひとり暮らしでも最期は自宅で過ごしたい。そう望む方は少なくありません。
今回は、「一人で不自由でも、安心できる場所は自宅」そう言って最期まで自宅で過ごした患者さんのエピソードを紹介します。
目次
・「最期は自宅」ひとり暮らしの在宅死という選択
・高齢、がん末期、ひとり暮らし。自宅で最期までを可能にする在宅医療
「最期は自宅」ひとり暮らしの在宅死という選択
自宅での療養生活を続けるためには、本人を支える支援者が必要です。その支援者は家族である場合が多いですが、65歳以上のひとり暮らしの高齢者は562万人で、今後も増えると見込まれています。こうした背景から、ひとり暮らしでも住み慣れた自宅での最期を希望する高齢者は増えていくと考えられます。
例えひとり暮らしでも、条件がそろえば自宅で療養することは可能です。本人の価値観や生活スタイルを大切に、安全、安楽に過ごすことができるよう、在宅医療チームがサポートします。
高齢、がん末期、ひとり暮らし。自宅で最期までを可能にする在宅医療
ここからは、患者さんのエピソードを紹介します。
幸次さん(仮名)82歳男性。1年前に奥様を亡くし、ひとり暮らし。
肺がん末期で外来通院していましたが、体力が落ち、痛みも出てきたため主治医から入院をすすめられました。しかし、本人は自宅で過ごすことを希望したため、本人を含め主治医と病院スタッフで時間をかけて話し合い、入院はせず最期まで自宅で療養することになりました。
幸次さんは肺がんによる息切れや倦怠感が強かったため、すぐに訪問診療に切り替え、在宅医療チームを編成。幸次さんのひとり暮らしでの療養生活がスタートしました。
本人の意思と在宅医療を続ける心構え
住み慣れた自宅であっても、療養生活での不自由さは避けられません。
シーツや下着を替えたい、物を取りたい、室温や明るさを調整したいなど、当たり前に出来ていた事が出来なくなる。病状が進行すると、こうした「小さな不自由」が増えてきます。さらに痛みが強い時、夜間に具合が悪くなった時に一人という状況は心理的な不安が生じます。
ひとり暮らしの療養生活では、自宅に居たいという意思とともに、こうしたデメリットを受け入れる覚悟も必要です。
周囲は反対。離れて暮らす家族は在宅希望を受け入れられるのか
幸次さんには離れて暮らす息子さんがいました。電車で片道3時間、仕事もあり頻繁な訪問はできません。最初は反対していた息子さんでしたが、在宅医療チームのサポートを受けて一人で療養することは可能であること、夜間や緊急時の対応についても十分話し合ったことで納得し、本人の意思を受け入れることになりました。
本人が自宅で過ごしたいと希望しても、家族や周囲の理解が得られないと難しいこともあります。大切にしているものや考え方を共有し、誰もが納得した最期を迎えられるようにしていくことが大切です。
在宅医療チームのサポート
訪問診療の医師、訪問看護師が定期訪問と24時間体制の診察や相談の対応をします。薬は訪問薬剤師が配達し、内服状況を確認しました。介護面ではケアマネジャーを中心に、身の回りのサポートをするヘルパーを調整し、定期的に人の目が入る環境を整えました。
ひとり暮らしの療養生活では、本人の生活スタイルをできる限り崩さないように配慮し、必要なサービスを調整することも大切です。自宅で自由に過ごしたいという本人の気持ちを受けとめ、本人の生活を中心にチームでサポートしていきます。
病状の悪化。ひとり暮らしは続けられる?
痛みが強くなり、起き上がりも時間がかかるようになってきた幸次さん。あらためて緊急時の対応を本人と息子さんに確認し、薬や必要なものをベッドサイドに揃え、安全に安心して過ごせるよう環境を調整しました。痛みが増したことで不安もあったため、看護師の訪問回数を増やしました。
幸次さんの最期
看護師が定期訪問すると、幸次さんはベッドでお亡くなりになっていました。前日まで、大好きなプリンを時間をかけて食べていました。その日もベッドの上にはプリンとスプーン、そして奥様との写真が置いてありました。
在宅医療を受けて介護保険のサービスを利用し、小さな不自由やデメリットを受け入れることで、ひとり暮らしの「最期まで自宅にいたい」を叶えることは可能です。住み慣れた自宅で、できる限りこれまでの暮らしと同じように生活ができるよう、在宅医療チームがサポートします。
参考文献
総務省統計局
https://zaitakuiryou.site/
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