小児科訪問診療、医療的ケア児を守る在宅医療とは
医療的ケア児という言葉を聞いたことはありますか?医療的ケア児とは、生活の中で人工呼吸器や胃ろうなどの医療機器を必要とし、日常的に痰の吸引などの医療的なケアが必要なお子さんです。少子化の影響で2022年度は出生数が80万人を下回るといわれていますが、医療的なケアが必要な子どもは約2万人といわれ、10年で2倍に増えています。
医療的ケア児を支援する体制は、まだ十分とはいえず、ご家族など支援される方の負担はとても大きいです。少しでも本人、ご家族の負担を軽減するために、医療的ケア児に対する在宅医療が注目されています。今回のコラムでは医療的ケア児と在宅医療についてメリットや注意点についてまとめます。
目次
・医療的ケア児とは
・医療的ケア児に必要な医療
・医療的ケア児を取り巻く環境
・医療的ケア児と在宅医療
医療的ケア児とは
医療的ケア児とは、繰り返しになりますが、日常的に医療的ケアが必要なお子さんのことです。医療的ケアには、口の中や鼻から痰を吸引することや飲み込みが難しいお子さんに胃ろうやチューブから栄養を送ること(経管栄養)などがあります。重症心身障害児※1と呼ばれる重度の障害を抱えているお子さんもいますが、医療的なケアは必要でも元気に走り回れる子もいます。
近年医療的ケアを必要とするお子さんが増えていることが報告されていますが、原因として医療の高度化、特に新生児医療技術※2が向上したことが影響していると考えられています。昔は生きて退院することが難しかったお子さんが、退院して自宅で生活できることが増えています。素晴らしいことですが、お子さんの命と健康を保持するために医療的ケアが必要になるお子さんも増えているのは事実です。
※1重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した状態を重症心身障害といい、その状態にある子どもを重症心身障害児といいます。
さらに成人した重症心身障害児を含めて重症心身障害児(者)
※2早産・低出生体重児をはじめ、新生児仮死、先天性疾患など、新生児期に発症するすべての疾患を診療します
医療的ケア児に必要な医療
医療的ケアには痰の吸引や経管栄養※1、人工呼吸器※2管理以外に酸素療法※3や導尿※4、太い血管に直接栄養を送る中心静脈栄養※5などが含まれます。また、医療的ケア児は発達の遅れやてんかん※6などの合併症も多く、体を動かす訓練(リハビリテーション)や社会性の獲得を目的とした療育、抗てんかん薬などによる薬物療法が必要になることも多いです。
さらに乳幼児期には、定期的な予防接種や検診、集団生活やきょうだい児から風邪をもらってしまうことなど医療との関わりが必要になる場面は少なくありません。
※1経管栄養とは、病気などで口から食事を摂ることが難しい方や、誤嚥の危険性が高い方が栄養を補給するために行われる方法のひとつです。
※2人工呼吸器は呼吸を人工的に管理するための医療機器で、100%呼吸を助けてくれるものから、ごくわずかのみ呼吸を助けるものまで、さまざまな機能を備えており、患者さんの病気の具合によりこれらを使い分けます。 人の呼吸の代わりとなる機能を果たすことから「人工臓器」とも呼ばれています。
※3酸素療法とは、室内空気より高い濃度の酸素を投与することです。
※4排尿障害などの原因でオシッコを上手に出せなくなってしまった場合に、それを助ける手段の一つとして「自己導尿」があります。 自己導尿は、オシッコが膀胱にたまったら、自らの手でカテーテルと呼ばれる管を尿道から入れて出す方法です。 これは膀胱に優しく尿路感染の危険も少ないため、とても優れた方法と言われています。
※5口から物が食べられなくなった時には、体の機能を保つために栄養を入れなければなりません。栄養を入れる方法には、血管を使う「静脈栄養法」と、胃や腸を使う「経腸栄養法」があります。さらに静脈栄養法は、腕や足の細い血管にカテーテルを入れる「末梢静脈栄養法」と、中心静脈にカテーテルを入れる「中心静脈栄養法」の2種類に分けられます
※6てんかんは、突然意識を失って反応がなくなるなどの「てんかん発作」を繰り返し起こす病気
医療的ケア児を取り巻く環境
医療的ケアは日常的に必要なため、外出するだけでも医療機器など多くの荷物が必要です。自宅でもケアできる人が限られており、特に母親に過度な負担がかかっていることが多いです。特に、酸素療法や人工呼吸器管理を必要とするお子さんの母親は、4人に3人が1日の平均睡眠時間が5時間未満になっていると報告されています。
支援者の負担が大きい理由の一つに、受け入れ可能な施設が少ないことなど支援体制が不十分であることが取り上げられています[3]。そのため、2016年の児童福祉法の改正で初めて「医療的ケア児」という言葉が法律に加えられ、2021年には「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」も成立されました。少しずつですが、支援の必要性や医療・福祉・教育機関などの連携の重要性についても理解が広まりつつあります。今後は子ども家庭庁の設立により、支援体制の強化が期待されています。
医療的ケア児と在宅医療
医療的ケア児に必要な医療は多いですが、受診するだけでも大きな負担があります。もちろん直接受診が必要なことも少なくありませんが、胃ろうなど医療機器の交換や予防接種、体調不良時の一般的な対応などは、在宅医療でも対応が可能です。自宅に訪問してもらうことで、病院では相談しにくい医療機器の置き場所や家の環境などの身近な悩みを相談できることもメリットといえます。
まとめ
在宅医療で小児をみてくれる診療所が少ないのも事実ですが、デバイスの交換や予防接種など一部を在宅医療として依頼することで、受診の負担が軽減できることもあります。医療的ケア児と家族が自分らしく生活していくために、在宅医療は良い選択肢の一つです。
参考文献
[1] 厚生労働省 医療的ケア児等の支援に係る施策の動向 2020年1月15日
[2] 笹井佐和子ら 酸素療法、夜間ケアを必要とする障害児の母親の睡眠と心の健康. 日本公衆衛生雑誌 2022; 69(4): 262-272
[3] 厚生労働省 医療的ケア児者とその家族の生活実態調査 2020年3月
今回は「医療的ケア児と在宅医療」について、ご説明させていただきました。お近くの在宅医療対応の医療機関はコチラから検索可能です。
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