球脊髄性筋萎縮症(Spinal and Bulbar Muscular Atrophy、SBMA)は、成人男性に発症する遺伝性の神経筋疾患であり、四肢の筋力低下や球麻痺(嚥下障害や発声障害)、呼吸機能の低下などが徐々に進行します。
この疾患の特性上、適切な訪問看護を受けることで患者の生活の質(QOL)を維持しながら、合併症を予防することが重要です。
本記事では、SBMA患者に特有の訪問看護の役割や注意点について詳しく解説していきます。


2. 球脊髄性筋萎縮症とは

球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は、X染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子の異常によって発症する遺伝性疾患です。
男性ホルモン(アンドロゲン)の影響を受け、30~60歳頃に発症することが多く、進行性の筋力低下や筋萎縮を引き起こします。

主な症状

  • 筋萎縮と筋力低下:特に四肢近位部の筋力が低下し、歩行困難や転倒リスクが増加します。
  • 球麻痺症状:舌や喉の筋肉が弱くなることで、嚥下障害や発声障害が現れます。
  • 内分泌異常:女性化乳房、耐糖能異常(糖尿病のリスク増加)、脂質異常症などが合併することがあります。

SBMAは進行が比較的ゆるやかですが、呼吸機能低下や誤嚥性肺炎などの合併症に注意が必要です。
訪問看護の適切な導入が、患者の健康を支える鍵となります。

補足:SBMAは遺伝性疾患のため、家族内での発症リスクや遺伝カウンセリングについての情報提供も重要です。


3. 訪問看護の役割

訪問看護では、SBMA患者が自宅で安全かつ快適に生活できるよう多角的な支援を提供します。
具体的な役割として、以下のような項目が挙げられます。

医療的ケアの提供

  • 呼吸管理:SBMA患者は呼吸筋の筋力低下による呼吸不全のリスクがあります。
    訪問看護師は定期的な呼吸状態の評価や在宅酸素療法(HOT)や人工呼吸器の導入サポートを行います。
  • 嚥下機能の評価と支援:嚥下障害が進行すると誤嚥性肺炎のリスクが高まるため、嚥下評価と安全な食事形態の提案が求められます。
  • 内分泌異常への対応:定期的な血糖値やコレステロール値の測定、医師との連携を通じた適切な管理が重要です。

補足:誤嚥性肺炎の予防には、呼吸機能の低下だけでなく、嚥下機能の維持も重要になります。

リハビリテーションの支援

  • 筋力維持と関節可動域の確保:筋力低下や関節拘縮を防ぐため、無理のない範囲での運動プログラムを提供します。
  • 日常生活動作(ADL)のサポート:着替え、入浴、移動の補助を行い、補助具の提案や適切な姿勢の指導を行います。

補足:訪問リハビリテーションと連携することで、より効果的な運動療法が可能になります。


4. 訪問看護における特有の注意点

呼吸機能の低下への対応

  • 呼吸状態のモニタリング:SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)の測定、呼吸数の確認などを行い、異常時には速やかに医師と連携します。
  • 在宅酸素療法(HOT)の導入:低酸素血症が確認された場合、酸素濃縮器や酸素ボンベを活用した在宅酸素療法を導入します。
方法目的使用機器
在宅酸素療法(HOT)酸素供給酸素濃縮器、酸素ボンベ
非侵襲的人工呼吸(NPPV)睡眠時無呼吸や換気不足の補助BiPAP、CPAP
気管切開人工呼吸(TPPV)重度の呼吸不全時の換気サポート人工呼吸器

補足:排痰ケアを組み合わせることで誤嚥や呼吸器感染症を防ぐことができます。


嚥下障害と栄養管理

  • 嚥下評価の実施:誤嚥のリスクを確認し、安全な食事形態を提案します。
  • 経管栄養の導入:経口摂取が困難な場合、鼻胃管や胃瘻(PEG)を活用した栄養補給が必要です。
方法目的具体的な手法
ミキサー食・ゼリー食嚥下負担の軽減トロミ剤の使用
経管栄養(鼻胃管・胃瘻)栄養摂取の安定チューブフィーディング
高カロリー食筋力維持・体力確保高タンパク、高カロリー食

5. まとめ

球脊髄性筋萎縮症(SBMA)患者にとっての訪問看護は、医療的ケア・リハビリ・精神的サポートを包括的に提供し、日常生活の質を向上させる重要な役割を果たします。
特に、呼吸管理や嚥下機能の評価・サポートは、合併症の予防と生活の安定に直結します。

訪問看護を活用することで、患者が自宅で安心して生活できる環境を整え、家族の負担を軽減することが可能です。適切な医療支援とリハビリを組み合わせながら、SBMA患者の健康を支える包括的なケアを提供することが求められます。

【参照元】

厚生労働省:訪問看護(改定の方向性)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001164130.pdf

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