高齢者では免疫力の低下、前立腺肥大症、腎不全の合併などの生理的変化やオムツの使用などによる環境面から膀胱炎や腎盂腎炎※などの尿路感染症が起こりやすいです。訪問診療でも大変頻度の高い疾患と言えます。

また、本人の訴えがはっきりしないことが多く、「尿の回数が多い」「オムツが臭う」「急に熱が出た」など家族からの相談ではじめて気が付くこともあります。何度も繰り返し発症することが多いため抗生剤が効きにくくなり、なかなか治りにくくなることも稀ではありません。まず尿路感染を繰り返さない、悪化させないように気を付けることが重要です。今回のコラムでは腎臓内科専門医が尿路感染症について詳しく解説します。


※腎盂内(腎臓内の尿のたまるところ)で細菌が繁殖し腎臓にまで炎症が及んだものを腎盂腎炎といいます。
 

目次
・在宅療養中の高齢者は尿路感染になりやすい
・尿路感染症を防ぐための対策は?在宅療養中の注意点
・訪問診療での尿路感染症の治療は?

 

在宅療養中の高齢者は尿路感染になりやすい

在宅療養中の高齢者は身体活動の乏しい方が多く、尿路感染症になりやすいです。特に寝たきりや膀胱内留置バルーンが入っている方では尿路感染症を繰り返しがちとなります。高齢者の特徴や、尿路感染症が起こったときの症状を覚えておき、早めに対応しましょう。

 

高齢者の尿路感染の原因は?
尿路感染症の多くは、腸の常在菌が尿道から上行性に感染を起こすことが原因です。女性は尿道が短いため、菌が入り込みやすく尿路感染が多くみられます。男性では、前立腺肥大など基礎疾患を持っている方が感染を起こしやすいです。男女とも、加齢に伴って免疫機能が低下し、また腎機能の低下、悪性疾患や糖尿病など基礎疾患を持つことで感染しやすくなります。また、何らかの疾患で尿路カテーテルを留置している方も、尿路感染を合併しやすいため注意が必要です。

 

尿路感染ではどんな症状が出るの?
尿路感染を起こすと排尿時の痛みや、残尿感、頻尿などの症状が出ます。通常膀胱炎のみでは発熱は起こりませんが、膀胱炎がさらに悪化し、逆行性に感染が広がり腎盂腎炎を合併すると発熱を伴います。在宅療養中の寝たきりの高齢者では、訴えがはっきりしないこともあります。頻尿や尿の濁り、オムツなどの悪臭で家族が気付くことも多く、周囲の方の注意が必要です。また、膀胱炎に気が付かず悪化すると、腎盂腎炎まで進展し、発熱して初めて感染に気が付くことも少なくありません。

腎盂腎炎まで進展すると、高熱を伴い、敗血症など重篤な症状へ進行することもあるため、なるべく早期に症状に気付き、治療を開始することが重要です。

 

尿路感染症を防ぐための対策は?在宅療養中の注意点

尿路感染症を防ぐためには、まず陰部を清潔に保つことが重要です。しかし、在宅療養ですとオムツ交換を頻繁に行うことが困難な場合もあります。なるべく早期に、尿の悪臭などの異変に気が付くとよいでしょう。普段から、水分を多くとることも尿路感染の予防となり、特に尿の悪臭や頻尿に気が付いたときには、普段より水分を多めにとることをお勧めします。それでも、症状が変わらない場合には、早めの受診もしくは訪問診療の医師や訪問看護師に相談してみましょう。

 

訪問診療での尿路感染症の治療は?

急性期、在宅療養で症状が悪化したときの治療は?
尿路感染症と診断されたら、抗生剤を使用して治療をします。症状が軽い場合には内服の抗生剤を使用し、症状が悪化した場合、内服薬が服用できない場合には点滴の抗生剤を使用します。水分がとれないときは、点滴で十分に補い尿を出すことで菌を洗い流します。

 

慢性期、在宅療養で尿路感染症を繰り返すときの治療は?
高齢者では、何度も尿路感染症を繰り返したり、尿の濁りがなかなか取れずに慢性化する場合も多くあります。中には神経因性膀胱や前立腺肥大などによる排尿障害が背景となっているケースも見られます。尿路感染を繰り返し、抗生剤を頻回に使用すると、徐々に抗生剤が効かなくなることも多く、再発しないように予防することが重要です。予防のためには、普段から水分を十分に摂取することが非常に大切です。また、クランベリージュースを一日一回飲用することで再発を抑制するという報告もあります。猪苓湯などの漢方薬も慢性尿路感染症に対し有効であると言われています。
 

 

まとめ 在宅療養中の高齢者は様々な原因により尿路感染症が起こりやすく、注意が必要です。また、繰り返すことで治療が効きにくくなることもあるため、感染を繰り返さないことが非常に重要です。そのため、水分を多めにとったり、オムツなど衛生環境を改善することが在宅での対策となります。そのほかクランベリージュース、漢方薬の服用により繰り返す尿路感染症の発症を抑えるとの報告もあります。なるべく症状の悪化を繰り返さないために気を付けていきたいですね。

看護師(以下N)「在宅患者さんで急な発熱が出た場合、尿路感染を疑うことが多いですね。」 医師(以下D)「そうですね。カテーテル留置中の患者さんも多いので、そういった場合は特に注意が必要です。」 N「介護者やご家族からの『ちょっといつもより尿が濃い、臭う』などの報告によって気付くこともあります。」 D「普段見ている方の気付きや報告はとても重要です。早めに気付いて対処することで、重症化を防いだり、再発を予防したりできます。」 N「早めに対応することが、在宅で永く療養してゆくことにも繋がりますね。」

 

  参考文献
JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015―尿路感染症・男性性器感染症― (kansensho.or.jp)  

 

今回は「高齢者の急な発熱、在宅療養中の尿路感染症に注意!」について、ご説明させていただきました。
お近くの在宅医療対応の医療機関はコチラから検索可能です。 https://zaitakuiryou.site/  

NEW !!

在宅医が見つからない、
そんな時に・・・

自分にあった在宅医が見つからない方必見!
患者様の情報をご提出いただくと、
その条件に合った在宅医から連絡が来ます。

在宅医療どっとコムに
クリニック情報を掲載しませんか?

在宅医療どっとコムは在宅医療に取り組む多くのクリニックから情報をご提供いただき、在宅医療の普及を支援することを目的として運営しています。
在宅医療を必要とする患者様やそのご家族と在宅医療を提供するクリニックを繋ぐ場として、ぜひご利用ください。

無料掲載を申請する

お気軽にお問い合わせください

掲載のご相談は無料となっておりますのでお気軽にご連絡ください。
お問合せから2営業日以内にご返答させていただきます。
オンラインMTGツールを使用したご相談も可能となっております。