「在宅療養している母が背中を痛がって昨日から起き上がれない」
「父の介護で背中を痛めてしまった」

ベッドからの体の起こし方によっては背骨に負担をかけてしまうことがあることをご存知ですか?

背骨に負担がかかることで椎間板ヘルニアや脊椎圧迫骨折のリスクが高くなり、高齢者においては寝たきりにつながる可能性もあります。
朝目覚めた時に背骨のことを意識して起き上がる方は少ないと思います。体の起こし方に違いがあるの?と思われたかもしれません。

今回は在宅療養している患者さんご自身と介護する方にも大切な、背骨に優しい生活様式や体の起こし方について、整形外科専門医が解説します。

どのような起き上がり方がよい?

まず背骨の構造ですが、頸椎(首)、胸椎(せなか)、腰椎(腰)、仙椎(しっぽ)の4区分です。
それぞれ7、12、5、5(ひと塊)の29個の椎体で構成されています。
胸椎には肋骨が付くので曲がったり回ったりはあまりしません。
一方腰椎ではみぞおちに近い部位で回り、お尻に近い部位で曲がったり反ったりします。
このお尻側の腰椎(3、4、5番)に上半身の重みがかかり、圧迫骨折や脊柱管狭窄症が生じます。

「普段曲がったり反ったりしてるんだから起き上がるときに曲がっても問題ないでしょ?」と思われるかもしれません。

しかし、椎間板が潰れたり椎体が前後にズレたりしてしまうのは長年のこの動きによります。
そして実は腰椎を曲げずに体を起こすことができるのです。

横向きに起き上がりましょう

方法は、ずばり『横向きに起きる!』。なんだそんなことか、と思うでしょうか。
しかし実際、壁際で寝ている方、足元から降りる方、布団で寝ている方はその場で上半身を起こすことが多いようです。

ベッドの場合、

  1. ①   ベッドの端に寄る
  2. ②   脚を垂らす
  3. ③   肘と手でベッドを押し横向きに上半身を起こす

上記の手順を踏めば、安全に起き上がることができます。
布団で生活されている方は③を実践しましょう。

どのような家具を使うとよい?

時代がどれだけ流れても、日本人にとって落ち着く環境といえば畳やごろごろできる床や炬燵でしょう。
しかしこの《低い位置から立つ》というのは実は背骨にはあまり好ましくありません。
起き上がる際に上半身をもたげたり、四つ這いで両手をついたまま脚を抱えて立ち上がったり、いずれも腰椎が過度に曲がってしまう姿勢です。

椅子やテーブルを使いましょう

訪問診療でご家庭を訪問すると、ちゃぶ台でお食事をされている方がまだ多いことを実感します。
座布団に座るとき勢いよく座ってしまうと圧迫骨折につながってしまいますが、ゆっくりかがんでも腰椎にはストレスがかかっています。

優しい体の起こし方を実践しましょう

ここまでで皆さんおわかりですね。床や布団で寝ることが悪いのではなく、そこから立ち上がることが背骨に悪いのですね。
ベッドを購入しなくても要介護認定を受けると介護ベッドのレンタル代の負担軽減が可能です。

浴槽内にも椅子を入れましょう

お風呂においても同様です。湯舟に沈み込み、そこから出る際に負担がかかります。
デイサービスなどでは《腰を掛けられる浅い箇所がある浴槽》を採用していることがあります。
しかしご自宅のお風呂を今から改築するのは困難でしょう。
そこでお勧めなのが湯舟の中に浴室用の椅子を沈めることです。
肩まで浸かりたい場合は手すりを壁に縦につけると過度に腰をかがめることなく立ち上がることができます。

まとめ

背骨は人間の体の柱です。経年劣化していくものですので、高齢者ほど大切にしなくてはいけません。
介護をしている方は、対象の方の背骨にどのようにストレスがかかっているか、今回の話で考えるきっかけとなり得るかもしれません。
若年中年の方は今後のご自身の体を大切にすべく、今から実践してみてください。

看護師N
(以下N)

体の起こし方までは意識していない方が多いと思います。普段の何気ない動作が、背骨に負担をかけている可能性もあるのですね

医師D
(以下D)

長年の習慣を変えるのは難しいと思いますが、まずは体の起こし方だけでも、少しずつ意識していくことが大切です。毎日のことですからね

N

「在宅だからこそ、日々の動作の見直しだけでも寝たきりの予防につながるということですよね」

D

「その通りです。ご家族の介護負担軽減のためにも、意識して欲しいと思います」

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