「どうやるの？在宅で行う腹水治療」の記事では、在宅で行う腹水治療について説明しました。

今回のコラムでは、腹水治療が必要な患者さんに対して在宅で行う腹水ドレナージの実際と、ひとり暮らしで腹水ドレナージを行い、最期まで自宅で過ごした患者さんのエピソードをご紹介します。

在宅医療で腹水ドレナージを行うという選択

「どうやるの？在宅で行う腹水治療」の記事でもお伝えしたように、医師が必要と判断した場合には状態をみながら自宅でも腹水ドレナージを行うことができます。

外来通院から在宅医療へ
腹水治療のために通院をしている方、腹水を抜くために外来を通院している方は、希望すれば在宅医療を選択することができます。通院できるうちは外来治療を続け、負担を感じるようになってきたら在宅医療に移行することも可能です。急な体調不良で通院が困難になることを考え、事前に主治医へ相談しておくのも良いかもしれません。

退院して在宅医療へ
現在入院中で定期的に腹水ドレナージを行っている方も、希望すれば退院して在宅医療に移行することが可能です。主治医と在宅医がこれまでの経緯や現在の状況などを情報共有し、自宅でも腹水治療が続けられるよう調整します。

家の環境でできる？実施中はどうする？在宅での腹水ドレナージの実際

自宅で行う腹水ドレナージに特別なものは必要ありません。横になった姿勢を保持できれば、介護ベッドの準備が整っていなくても実施することは可能です。

安全に行うために、まずエコーで腹水の位置を確認します。安全に実施できると判断したら、麻酔をしたうえで針を刺し、1回につき約1000〜4000cc程度の腹水を抜きます。所要時間は1〜3時間程度です。

自宅では、腹水を自宅にあるバケツやペットボトルなどに流します。また、針を接続しているチューブが折れたり抜けたりしないよう、紙コップを使って固定します。

事前説明と準備
腹水穿刺は比較的安全に実施可能ですが、針を刺す処置となるため合併症がおこるリスクもあります。安全、安心に実施ができるよう、事前の説明をした上で処置を行います。また、事前に腹水の位置と針を刺すおおよその場所を確認することもあります。

実施中・実施後の観察
実施中や実施後の状態確認のため、訪問看護を導入して緊急時も24時間サポートできる体制を整えておくことがほとんどです。ご家族がいる場合、十分な説明を行った上で実施中や実施後の観察をしていただくこともありますが、在宅医や看護師とこまめに連絡をとり、緊急時はすぐに訪問できる状況で行います。

ひとり暮らし、身寄りなし。腹水ドレナージを行い最期まで自宅で過ごした患者さん

直腸がん末期の73歳男性Mさん。転移性肝がんの影響により腹水が貯留している状態でした。
絵画が趣味のＭさんはひとり暮らしで身寄りもいませんでしたが、「最期まで自宅で絵を描きたい」と希望したため、在宅医療を受けて自宅で療養することになりました。

退院後しばらくは体調がよかったMさんですが、腹水貯留による息苦しさと疲労感が強くなってきました。
「この息苦しさを何とかしたい。来週、どうしても外に出たいんだ」と訴えるMさん。

Mさんは比較的全身状態が良かったため、在宅医は自宅での腹水ドレナージについてMさんに説明し、訪問看護師の見守りのもと、腹水ドレージを行いました。実施中は訪問看護師がMさんに付き添い、医師に状態を報告。３Lの腹水を抜いたところで、再度医師が訪問し、針を抜きました。

翌日、呼吸が楽になりほっとした表情のＭさんは看護師に「少しだけ外に出たい」と伝えました。在宅医より外出許可は出ていたため、車いすで看護師の介助のもと近所の公園に行くことができました。きれいな桜を見ながらMさんは満足そうに何度もうなずいていました。

数日は調子が良かったものの徐々に全身状態が悪化し、外出の6日後にMさんは自宅で息を引き取りました。ベッドのそばには桜の景色が書かれたスケッチブックと、桜色の色鉛筆が置かれていました。

今回は「ひとり暮らしでもできる？在宅で行う腹水ドレナージの実際」について、ご説明させていただきました。
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