「そろそろNICU※から退院できそうですね」待ちに待った喜びがある一方で、自宅で生活できるのか、不安な気持ちも大きいのではないでしょうか。

退院前には医療的ケアの習得、訪問看護や地域サポートの調整など、慣れないことが多く大変ですよね。初めはわからないことだらけかもしれませんが、長時間面会や付き添い入院など、少しずつ慣れていく時間を確保し、不安を解消してから退院することが多いと思います。

退院後はお子さんと一緒に生活できるようになりますが、すぐに相談できるスタッフがいないなど不安を感じる場面は少なくありません。今回のコラムでは退院後の生活で知っておきたいことについて現役小児科医が詳しく解説します。

新生児集中治療室のことです。

目次
・NICU退院後の生活にむけて、どうやって準備をするの?在宅医療への移行
・在宅療養生活で知っておきたいこと

NICU退院後の生活にむけて、どうやって準備をするの?在宅医療への移行

まずは在宅の環境作り
初めは目線や物品の置き場に慣れているNICUの環境を参考にしていただくことをおすすめします。自宅の間取りやコンセント配置など、あらかじめ病院のスタッフと相談していただくと安心です。生活リズムに慣れてきてから、在宅スタッフと相談しながらご家族にとってより過ごしやすい環境を考えていきましょう(医療的ケア児と在宅医療医療的ケア児と在宅医療②もご参照ください)。

自宅退院に向けてスケジュールを調整
入院中に注入や吸引、投薬、おむつ交換など大まかなスケジュールを把握しておきましょう。1日の目安になるスケジュール表を作成しておくと、ご家族の中で役割の共有などがスムーズです。慣れてきた段階やお子さんの成長に合わせて調整していきます。

退院後の通院手段の確保
乳幼児期は成長発達の評価や医療的なケアの調整のために定期的な通院が必要です。予防接種やシナジス®*注射がある場合は、しばらく毎月受診することも珍しくありません。

入院していた病院に通院される方が多いですが、距離や交通手段で通院が難しい方も多いです。なるべくご家族の負担が軽減されるよう、予防接種などは近くの病院や在宅医とも相談してみてください。

*シナジス®:早産児や基礎疾患のある子のRSウイルス感染症を予防するための注射です。予防接種とは異なり、予防が必要な期間は毎月大腿の筋肉に注射します。

在宅療養生活で知っておきたいこと

実際に在宅での生活が始まると、入院中とは少し違う悩みがたくさん出てきます。そこで在宅療養生活が始まるときに知っておきたい3つのポイントを解説します。

① 出かけるときの留意点
医療的なケアはもちろん、必要な物品の多さや体温調節の難しさなどにより医療的ケア児の外出はとても大変です。できれば外出用のセットやチェックリストの作成をおすすめします。移動手段には自家用車や福祉タクシー、公共交通機関などがありますが、以下に注意しましょう。

・消耗品やオムツの数に余裕を持つ

・トイレやエレベーターの場所を確認しておく

・移動中の疲れや急な体調不良に備える

・熱のこもり用にアイスノンや携帯型扇風機を準備する

・緊急時の対応フローを準備する

外出は大変ですが、慣れてきたご家庭では旅行に出かける方もおります。短距離から少しずつ慣らして、バリアフリーを提示しているホテルやレジャー施設を選ぶのがポイントです。なお、遠出を検討される場合は必ず主治医に相談しておきましょう。

② 予防接種スケジュール
医療的ケア児のお子さんにとっても、予防接種はもちろん必要です。入院中の接種状況によってスケジュールを調整します。ワクチンは種類も多く、接種間隔も複雑なためスケジュールは得意な人(医療者)にお願いしましょう。

特に早産児などハイリスク児は、月に1度シナジス®の注射が必要なことがあります。他の予防接種と同様に在宅医療でも受けられますが、対応できる在宅クリニックは限られており、あらかじめ相談が必要です。

③ 知っておきたいトラブルとその対処法
入院中にもありますが、退院後は自宅でさまざまな医療的ケアに関連したトラブルに出くわします。トラブルの完全な予防は難しいため、よくある事例だけでも把握し、準備や対応を考えておきましょう。

(頻度の多いトラブル例)
・胃ろうや栄養チューブが抜けた:入れ替えに自信がなければ訪問看護師に連絡しましょう。在宅医療での対応が難しければ、通院先の医療機関にご相談ください。

・気管カニューレが抜けた:すぐに再挿入が必要です。挿入が難しい場合は、救急車を呼びましょう。

・機械のトラブル:業者さんに相談しましょう。夜間も相談できる緊急連絡先を機械に付けておくことをおすすめします。人工呼吸器の故障もありえるため、手動の蘇生バッグを準備することも大切です。

お子さんの成長はとても嬉しいものですが、動ける範囲が広がることで予測できないトラブルが増えがちです。発達段階を見ながら、生活での工夫も在宅スタッフと一緒に相談していきましょう。

 

まとめ
NICU退院はお子さん・ご家族はもちろん医療者にとっても、非常に大きなイベントです。退院後は大変なこともたくさんありますが、お子さんと一緒に生活できることや成長・発達を実感できるなど、入院中では得られない体験がたくさんあります。日常の相談はもちろん、日々の成長を一緒に見ていけるのも在宅医療のメリットです。

 

看護師(以下N)「退院前から、自宅での生活をイメージして準備をすすめることは大切ですね」

医師(以下D)「特にきょうだいがいる場合、生活リズムがNICUとはかなり変わることもあるので、家族の一日のスケジュールを確認することも必要です」

N「胃ろうなどの交換のことや、トラブルがあったとき、緊急時はどうするかなど、家族を中心に病院、在宅医療チームで退院前にはカンファレンスを行って話し合っています」

D「大切なことですね。NICUを退院したあとも、本人の体調や家族の不安はないかなど、在宅医療チームと連絡を取り合っていきます。家族だけで抱えず、チームで成長を喜んでいきましょう」

 

参考文献
メディカ出版、前田 浩利 監修
改訂2版 病気をもつ子どもと家族のための「おうちで暮らす」ガイドブックQ&A

 

今回は「医療的ケア児の退院後 、在宅療養で知っておきたいこと」について、ご説明させていただきました。
お近くの在宅医療対応の医療機関はコチラから検索可能です。https://zaitakuiryou.site/

 

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