「災害は忘れた頃にやってくる」といわれておりますが、最近では毎年のように日本各地で何らかの自然災害が発生しています。地震を始め、津波や台風、大雪、土砂崩れなど多様な災害のニュースを見聞きすることは稀ではないでしょう。

「身近で起こったらどうしよう」と不安を抱えつつも、災害対策はバッチリだという方は少ないと思います。今回のコラムでは、医療的ケア児が備えておきたい災害対策について、現役小児科医が詳しく解説します。

 

目次
・大丈夫ですか?医療的ケア児の災害対策
・「備えあれば憂いなし」今すぐ取り組んでおきたい災害対策


大丈夫ですか?医療的ケア児の災害対策

災害が起こったときに困ること
災害時には以下のリスクを考えておく必要があります。

・家具の転倒:ケガや移動の制限
・建物の崩壊:居住スペースの確保が困難
・道路の断絶:食事や薬などの不足、受診が困難
・停電:医療機器の使用制限、日常生活の制限
・断水:日常生活はもちろん吸引・吸入・服薬などにも制限

 

短期間で復旧することもありますが、数日から数週間かかることもあります。特に停電は、適切な準備がなければ医療機器を使用することができなくなり、医療的ケア児にとって命の危機につながりかねません。

 

*電源が必要な医療機器:人工呼吸器・加温加湿器・酸素濃縮器・吸引器・吸入器・経管栄養ポンプ・輸液ポンプ・パルスオキシメーター・腹膜透析など

 

災害対策の現状
災害対策では「自助・互助・共助・公助」という要素が重要です。

自助:自分・家族の命は自分で守る
互助:家族や友人による自発的な支援
共助:地域・グループはみんなで協力して守る
公助:国や自治体が準備し、対応する

 

しかし、医療的ケアが必要な方など少数派への共助・公助は限られています。例えば、阪神淡路大震災で養護学校の児童が避難所に避難したのは約10%に過ぎず、16年後の東日本大震災でも避難所に避難した障害児・者は12%と報告されています[1]。16年の期間があっても、障害のある方が避難所に安心して避難することは難しく、自宅や親戚・知人宅に避難しているのが実情です。

 

もちろん、福祉避難所など対策が広がっていることも事実ですが、準備や周知はまだ不十分だと認識しておく必要があります。医療的ケア児にとっては自助・互助が特に重要です。

 

「備えあれば憂いなし」今すぐ取り組んでおきたい災害対策

 

まずは地域の災害リスクを知りましょう
防災ポータルサイトや地域のハザードマップから、どのような災害が想定されているか確認しておきましょう。自治体によっては公式LINEや防災メールサービスなどもあるため、登録がおすすめです。

 

災害時対応マニュアルを作成しておきましょう
緊急時は普段どおりに介護できるとは限りません。お子さんの介護に必要な情報をまとめた災害時対応マニュアルを作成しておきましょう。病名や健康状態、必要な医療的ケア、投薬内容、医療機器の種類、バッテリーの耐用時間、かかりつけの医療機関などをまとめて確認できると安心です。

 

また、避難時に必要な物品類はセットにしておくことをおすすめします。体調不良やレスパイトなどで入院する際にも活用できます。

1週間程度は自宅で生活できる準備をしておくことが推奨されています。医療用具や衛生用品、医薬品の備蓄はもちろん、飲料水・食べ物なども準備が必要です。

停電時のための予備バッテリーや酸素ボンベ、アンビューバッグ※などは訪問スタッフともご相談ください。医療機器メーカーや電力会社にも有事の対応を確認しておき、緊急時連絡先はすぐに確認できるようにメモしておきましょう。

 

※患者の口と鼻から、マスクを使って他動的に換気を行うための医療機器。

 

災害時要支援者登録制度はご存知ですか?
平成25年に避難行動要支援者名簿の作成が義務化され、令和3年に個別避難計画の作成が努力義務化されました。支援が必要な人を自治体が認識して、個別に避難の計画をつくることが勧められているということです。

要支援者登録は「自己申告制」です。医療機関や自治体も確実に声掛けができているわけではありません。個別避難計画を地域と共有することはお互いにとって大切です。登録できていない方は自治体や訪問スタッフにご相談ください。

まとめ
災害は起こらないに越したことはありませんが、いつどこで起こるかわかりません。いざというときに落ち着いて行動するためには、準備が大切です。訪問スタッフと相談しながら、災害に備えておきましょう。

 

*以下のマニュアルをご参考いただくことをおすすめします。
・三重県小児科医会:「災害時対応マニュアル」作成のための小児在宅医療的ケア児災害時対応マニュアル 第1.2版. 2020.

・国立成育医療研究センター:医療機器が必要な子どものための災害対策マニュアル〜電源確保を中心に〜 改訂版. 2019.


看護師(以下N)「先生、詳しくありがとうございました。災害は忘れた頃にやってきます。日ごろの備えが重要ですね。」
医師「そうですね。在宅医療を受けている患者さんは避難が特に難しい方が多いので事前に確認しておきましょう。」
N「要支援者登録は自己申告制なのですね…。登録していない方は要確認です。」


参考文献
[1]田中総一郎:東日本大震災での経験をもとに検討した日本小児科学会の行うべき大災害に対する支援計画の総括:障害児への支援計画. 日児誌 2015; 119: 1159-1178.

 

今回は「緊急時の備えはできていますか?在宅医療における医療的ケア児と災害対策」について、ご説明させていただきました。
お近くの在宅医療対応の医療機関はコチラから検索可能です。
https://zaitakuiryou.site/

 

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